映画「ゲットアウト」感想&考察(ネタバレありとなし)

コメディ
コメディ ホラー 映画
この記事は約8分で読めます。

この家族、何かがおかしい。

今回は、黒人青年の悲劇を描くホラーコメディ「ゲットアウト」を感想&考察します!

第一部(ネタバレなし)

何故か笑える人種差別ホラー

f:id:typasent:20200221131048j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

あらすじは、黒人青年のクリス(ダニエル・カルーヤ)が白人で彼女のローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家へ挨拶に行くことになる、というシンプルなストーリー。

行く前は「白人一家」に黒人がひとり、の状況に不安を覚えていたクリス。

実際に会うと優しい家族でひと安心……と思いきやどうも様子がおかしい。

家事使用人として働くのは全て黒人。

一家の自分に対する態度もどこか変。

この「どこか変」がなぜか笑える。

電車のなかでⅰPadで観たンですが涙流して笑ってしまいました。

例えば、中盤の白人一族のパーティシーン。

f:id:typasent:20200221131336j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

黒人のクリスに対して、周囲は気を遣った発言をしているようなんですが、それが全て失礼。

黒いスーツを着た男性は「200年は白の時代だった。だが今は黒がキテる」と笑う。

いや、服と一緒にすんなよ……。
ファッションとして肌が黒いわけじゃねーから……。
そう思うクリスですが、彼女の家族なのでキレるわけにもいかず苦笑い。

白人おばさんはクリスの腕を触りガタイの良さを褒める。

アソコも凄いんでしょうね、と周囲は微笑む(アメリカ人のステレオイメージとして「黒人はアソコがデカい」ってのがあります)。

これらのシーンが、ギャグのような間合いとクリスの苦笑いで構成されてるので、薄気味悪い空気と音楽が流れながらどこかおかしいんですよね……。

芸人監督・ジョーダンピール

f:id:typasent:20200221131358j:image

Photo by Kevork Djansezian/Getty Images

調べてみると、本作の監督・ジョーダンピールはアメリカでは人気コメディアンとして活動してるそう。

同じく芸人のマイケル・キーと「Key and Peele」というコメディ番組に出演しています。

この番組で行なっているコントは、主に黒人差別ネタ。

白のなかに黒が混じる、という違和感を笑いに昇華したブラックコントをキーとピールが披露する内容。

コレ、まんま今回の「ゲットアウト」ですよね(笑)

評価が二分する「不気味コメディ」

本作を鑑賞した友人たちに感想を聞くと、評価が大きく二分しました。

  • めちゃ怖かったけど内容は普通
  • 終始笑えたし演出も変わってて面白い

要約すると「笑うか?怖がるか?」が線引きのポイントだと思いマス。

最も感想が二分したのは、ローズの母親の催眠術シーン。

映画序盤。ローズの母・ミッシー(キャサリン・キーナー)はクリスに「喫煙しているか」を尋ねます。禁煙中だと答えるクリスに、「私の催眠療法で禁煙にできる」と伝えるミッシー。しかし不気味に感じたクリスはこれを拒否。

その夜。クリスが廊下を歩いていると、キャシーの呼び声。

振り返ると、リビングのソファに座り紅茶を飲むキャシー。

キャシーは対面に座るよう伝え、クリスは従います。

f:id:typasent:20200221131438j:image
(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

キャシーは、彼が幼少期に経験した「ひき逃げによる母親の死去」というトラウマについて問います。思い出したくないクリス、しかし彼女の催眠術で徐々に記憶が甦る。
そして彼女がスプーンをカップに叩き「チーン」という音が鳴った瞬間!クリスは暗闇のなかに突き落とされます。

宇宙のような暗がりのなか、スローモーションでもがくクリス。

f:id:typasent:20200221131453j:image
(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

彼の前には、長方形のスクリーンに映るキャシーの姿。

目が覚めると、クリスはベッドのなか。

隣には、すやすや眠るローズ。

困惑の表情で、クリスはまた眠りにつきます。

なんか……笑えませんか?(笑)

彼女のオカンに催眠術をかけられる。
このシチュエーションがもうコントというか……。

キャシーも、綺麗なアメリカ人女性というよりホントにTHEオカンなんです。

暗闇でもがく黒人男性の前に、長方形スクリーンに映る彼女のオカン。このいびつな構図と展開が何とも言えない笑いを生んでいます。

あとは黒人の家事使用人・ジョージナ(ベティ・ガブリエル)の顔芸。

f:id:typasent:20200221131630j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

カマキリのような顔立ち(失礼ですいません汗)の彼女が、無機質な笑みを浮かべる姿。それを困惑して見つめるクリス。涙を伝わせるジョージナ。さらに困惑するクリス。

ここも「怖い」と「笑える」で二分したんですが、個人的にはふたりの顔芸がとにかく笑えました……。

第二部(ネタバレあり)

笑撃の事実

終盤以降、白人一家の目的が明らかになります。

彼らは黒人を拉致し、黒人と一族の脳の一部を入れ替えることで、黒人たちを支配してたンです。

f:id:typasent:20200221131709j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

理由は「黒人からの世界が見てみたい」とか「もうすぐ死ぬので、若い黒人になることで生き永らえたい」とかさまざま。

突如明らかになるとてつもない事実。
クリスは「イカれてる……」と困惑。

この事実を何故かホームビデオのようなテイストの動画でクリスに見せつける。

f:id:typasent:20200221131730j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

ニタニタと笑う白人一家とおびえる黒人青年のコントラストがまた奇妙な笑いを生みます。

おそらくこの「脳手術」というのは、中世まで存在していたといわれる「差別対象者への理不尽な脳手術」へのメタファーかと思います。

当時、障がい者に対して研究が進んでいなかった時代に、脳手術という名の人体実験を施していたとか。本作ではそれを「黒人」に置き換えることで、肌が黒いことを障がいと捉える差別意識を皮肉ってるわけです。

この展開で最初に想起したのが、映画「猿の惑星」。

猿に支配された世界では人間は見下され、脳手術を施し奴隷として扱われている……という設定。「差別」がテーマという点でも共通しています。

なので最初は猿の惑星オマージュかな?と思ったンですが、監督のジョーダンピール曰く、「ステップフォードワイフ」のオマージュらしいです。

ステップフォードワイフ

映画「ステップフォードワイフ」が制作されたのは、「女性は家庭に入り、仕事をせず夫を支える」という意識が強かった時代。

物語は、ゲットアウトとかなり酷似しています。

主人公のジョアンナは、夫のウォルターと、高級住宅街「ステップフォード」に引っ越してきます。住人も優しく、一見普通なのですが、何かがおかしい。

妻はみな仕事をせず、夫に従順な専業主婦ばかり。

実はこの町は、妻を家庭に縛り付けたい夫たちによって、ほんとうの妻は殺され、元妻にそっくりのロボットを製造していたのだった……。

これを知ったジョアンナは町からの逃亡を図る、というストーリー。

この「女性差別」を「黒人」に置き換えたのが「ゲットアウト」。

そう考えると、ゲットアウトは黒人に限らず、あらゆる差別に対する皮肉が含まれた作品なんですね。

トランプ当選により変更されたエンディング

終盤。なんとか逃げのびたクリス。

倒れるローズの首を絞め始めます。

そこへパトカーがやって来る。

パトカーに向かい「助けて……」と手を伸ばすローズ。

f:id:typasent:20200221131825j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

クリスは疲れ果てた顔で両手を挙げます。

パトカーから出てきたのは……クリスの親友・ロッド(リル・レル・ハウリー)。

ふたりはパトカーに乗り、帰路につく……で幕を閉じます。

コレ、最初は違うエンディングだったそうです。

パトカーから出てくるのはフツーの警官で、クリスがローズの首を絞めていたのを見た警官が彼を逮捕。牢獄のなかで、クリスはロッドに「何が起きたか」をぽつぽつと話す……で幕を閉じる。

レイシズムの悲惨な現状を訴える上記ラストにしようとしていたピール。

しかし、差別主義者のドナルド・トランプが当選したことや、黒人が不当に射殺される事件が相次いだことから、「映画のなかだけでもハッピーエンドにしよう」と判断。現在のエンドに変わったそうです。

トラウマにより救われる

本作は差別のほかに、「トラウマ」というテーマが描かれます。

クリスは幼少期、母親のひき逃げを目撃したにも関わらず、警察に通報せず、部屋に閉じこもりテレビを観ていました。

それは「誰かに伝えたら本当になってしまう」という怯えと現実逃避からでした。

少年のクリスは、ソファに座り、椅子の角を手でギリギリすることで、その恐怖を抑えていました。

その後母は死亡。検査の結果、母は即死ではなかったことが判明。「あの時すぐに救急車を呼んでいれば」と、彼は青年になった今でも悔やんでいます。

そんな過去を封じ込めていた彼が、序盤、鹿を車でひき殺してしまったことで、「ひき逃げ」のトラウマを甦らせてしまいます。

苦い記憶が甦るたび、椅子の角を手でギリギリさせることで抑制するクリス。

f:id:typasent:20200221131931j:image

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

しかし、キャシーの催眠術によって、トラウマをくっきりと思い出してしまうのです。

そして終盤。椅子にがんじがらめにされたクリス。

恐怖を抑えるため椅子の角をギリギリ……していると、角のなかから綿が。彼はそれを耳栓にすることで、キャシーからの催眠術を逃れます。

彼がトラウマから逃れるため編み出した処世術が、現実の恐怖から逃れるための役に立つ。

過去に経験したツライ出来事によって、苦しい局面を打破することができたわけです。

トラウマを忘れることは出来ないけれど、その事実は決して悪い方向だけには傾かないはず、というささやかな希望が、この場面で描かれています。

そして彼のトラウマだけでなく、黒人の方々すべてのトラウマと解釈できるのが、「綿」で助かるという設定。

その昔、黒人は綿摘み農業の使用人として酷使されてきました。

彼らにとってツラい事実であり、見たくもないであろう「綿」という存在が、白人たちから逃れる手段として描かれるのです。

このあたり、さすがアカデミー賞脚本賞を受賞しただけある、見事な設定と構成力デス。

というわけで以上、映画「ゲットアウト」レビューでした!

コメント

タイトルとURLをコピーしました