【アイリッシュマン公開記念】スコセッシの「マーベルは映画じゃない」発言を考察する

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Martin Scorsese Story – Bio, Facts, Home, Family, Auto, Net Worth | Famous Directors | Success Storyより

 

タクシードライバー」ほか、数多くの名作を生み出してきた映画監督のマーティン・スコセッシ。彼がマーベル作品を「映画ではない」と言及したことが話題になっています。

 

「マーベル映画のようなテーマパーク映画は、また別物の体験です。前にも言いましたが、あれは映画ではなく別物。好きかどうかにかかわらず、別物だし、我々はそちらに侵されてはいけない。これは大きな問題です。劇場主は、物語を語る映画の上映を強化すべきです。」

映画館がアミューズメントパークになりつつあります。それは素敵なことだし、良いことだと思いますが、すべてが飲み込まれてしまってはいけない。あの手の映画を楽しむ人々にとっては良いことですし、彼らの仕事はすごいと思います。ただ、単純に私の仕事ではない。(マーベル映画は)“映画とはああいうものだ”と観客に思わせる体験を生み出していますよね。

(以上、マーティン・スコセッシ「マーベル作品は映画じゃない」発言ふたたび ─ 「侵されてはならない」とのコメントが物議、その背景と真意は | THE RIVERより引用)

 

スコセッシ自身は「マーベル作品を観ていない」ことからも、本発言には批判が集まっています。

今回はこの言及についてを考察していきます。

 

 

スコセッシの「映画」が消えていく?

 

本発言は、スコセッシがロンドン映画祭の記者会見に登壇した際に言及されたものです。そして、その映画祭に出席したのは、スコセッシの最新作「アイリッシュマン」の紹介を兼ねたものでした。

 

 

この「アイリッシュマン」、映画館公開ではなく、Netflix配信。監督がスコセッシで、出演がロバートデニーロとアルパチーノの大作ギャング作品であるにも関わらず、劇場で観られないんです。

大きな要因は「製作費」とされています。膨れ上がる製作費に難色を示した映画配給会社が離脱し、最終的に多額の出資金を提供したNetflixに権利が譲渡されたそうです。

 

しかし、「製作費」だけが要因でしょうか?

それこそ、マーベル作品である「アベンジャーズ」は、豪華キャストと最新技術を駆使した映画。莫大な費用がかかっているはず。

おそらく、「莫大な出資額に見合ったリターンがない」と映画配給会社は判断した、というのが真相と推察しております。

 

スコセッシ新作でデニーロが主演なのに、なぜリターンがないのか?

往年の映画ファンなら必ず劇場に足を運ぶ作品なのに……。

 

そう、「往年の映画ファンなら」足を運ぶでしょう。

しかし、今現在の観客層で、「往年の映画ファン」が占める割合はどのぐらいか?おそらく3分の1にも満たないのではないでしょうか。

では、3分の2はどういった層か?

 

これは、2019年10月15日現在の映画の世界興行収入ランキングです↓

 

1位 アベンジャーズ/エンドゲーム(2019年公開) 27.978億ドル

2位 アバター(2009年) 27.897億ドル

3位 タイタニック(1997年) 21.875億ドル

4位 スターウォーズ/フォースの覚醒(2015年) 20.682億ドル

5位 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018年) 20.484億ドル

(以上、世界歴代映画興行収入 / TSP映画より引用)

 

1位にドドンとアベンジャーズ

5位もアベンジャーズ。6位以下にもマーベル作品が名を連ねています。

 

そして、このランキングの100位以内に、スコセッシの作品はありません。

 

映画とはマーベルである、という風向き

 

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(C)2019 MARVEL

 

マーベルは、「映画とはこういうものだ」と観客に思わせる体験を生み出している──

 

思えば、私の周りにも、「映画が好きです!」という方に、今まで観た映画や好きな映画を問うとすべてマーベル……といった出来事がありました。そのぐらい、マーベルは多くの観客を魅了しているということです。

その理由は、映画自体のクオリティの高さももちろんあります。しかし最も大きいのは、「ユニバース化の成功」ではないでしょうか。

ヒーロー映画を単独でたくさんつくり、アベンジャーズで一堂に集結。この仕組みにより、各々のヒーローファンたちはこぞってアベンジャーズを観に行くことになります。また、それぞれが同じ世界線上にいて、背景でアベンジャーズの物語が進行しているため、シリーズモノとして鑑賞することも出来ます。それにより、次回も観に行かなくては!という気持ちを駆り立てることに成功しているのです。

 

これが、スコセッシが言及した「映画とはこういうものだ」と思わせる体験、という発言の真意ではないでしょうか。

 

こうした「娯楽大作が映画業界を席巻する」こと自体は、マーベル誕生以前からありました。そのなかでもスコセッシ作品はきちんと製作され、劇場で上映がなされていたのです。

しかし、マーベル映画が映画産業を取り込んで以降、その雲行きは怪しくなり、同時にネット配信サービスが主流化したことにより、スコセッシが言うような「映画」はネット配信に流れていくようになったのです。

 

とはいえ、スコセッシが語るような映画たちのクオリティが、マーベルと比べて低いか?といわれれば決してそうではなく、十分互角に戦えるクオリティであるのは間違いありません。

にも拘わらず、何故、劇場で流すことが出来ないのか?

 

それは、「映画代の上昇」に伴う、「映画館で観ることの必要性」の意識が高まったからと推察しています。

 

映画館で観る必要性

 

映画代、1900円。

うげー高い!そう感じ、劇場へ向かう足を止める方も多いはず。

それでも足を運ぶ場合、「せっかく1900円払うンだから、映画館で観る必要性がある映画を観よう」と考えることがありませんでしょうか。

 

この、「映画館で観る必要性」とは何か。

 

映画館の魅力は、

  1. 大きなスクリーンで、
  2. たくさんの人たちと、

観ることが挙げられます。

 

大きなスクリーン」で観たい映画とは、最新の映像技術を駆使したド迫力の作品!

たくさんの人たちと」観たい映画とは、劇場から笑い声がこぼれ、すすり泣く声が聞こえるようね、一体感溢れる作品ではないでしょうか。

 

では、一方で、「映画館で観なくてもいい映画」は何か。

それは、大きなスクリーンで観る必要がない映画。一人で観る映画。

こうした作品こそ、スコセッシが生み出す映画たちであり、彼が言及している「映画」でしょう。

 

スコセッシが言う「映画」は潰えるのか

 

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Martin Scorsese Story – Bio, Facts, Home, Family, Auto, Net Worth | Famous Directors | Success Storyより

 

では、スコセッシ的な映画は、劇場から姿を消していくのでしょうか?映画館でかかるものは全て、大作娯楽になってくのでしょうか?

 

私は「NO」と思います。

それは、2019年に公開された映画「ジョーカー」のヒットに理由があります。

 

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映画ジョーカー公式サイトより

 

バットマンの宿敵・ジョーカーを主役に置いた作品。こう聞くと、マーベルと同じヒーローユニバースの類を連想します。事実、DCユニバースの系譜上にある展開も随所にあります。

しかし、本作のストーリーラインはいたってスコセッシ的。ジョーカーを一人の人間として描き、彼の挫折と絶望、堕ちていくまでを活写した内容。スコセッシの「タクシードライバー」や「キングオブコメディ」、あるいは「狼よさらば」を想起させる物語と演出。

アメコミから派生してはいるものの、中身はそうしたアメコミ映画に背を向けるような、暗く硬派な作風になっています。

 

そして、その作品が大ヒット。

ベネチア映画祭で最優秀賞を受賞するなど、評価も上々。

私が観に行ったときは広い場内に観客は満席。終幕後のみなさんの満足度も高い印象を受けました。

 

確実に、スコセッシの言及する「映画」は、今、求められているのです。

 

私の予想:マーベル映画は下火になるのでは?

 

「アイアンマン」以降、マーベル映画の魅力を知り、劇場へ足を運ぶようになった私。「アベンジャーズ/エンドゲーム」も満足度は高かったです。

高かったですが……既視感の強い映像や。アベンジャーズ陣営の強さのインフレ化もあり、「もう、お腹いっぱい……」という感想。

今後もマーベル作品の製作は続くとのことでしたが、昨今のような巨大なブームの波は徐々に下火になっていくのではないでしょうか。

 

そして、次に求められるのは、今の映画業界に足りない、マーベルの作風とは真逆の「暗く硬派な作品」。

甘いもの食べ過ぎて今度は辛いものが食べたくなるのと同じ理屈かと(アホな比喩でスイマセン笑)

 

ただ、似たようなインフレシリーズである「ワイルドスピード」が現在も根強い人気を誇り、かつ、興行収入もうなぎのぼりなところを見ると、私の予想が外れる可能性も大きいですね(汗)

 

総論:スコセッシの美学が言葉に現れた出来事

 

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(C)2019 MARVEL

 

「アイアンマン」を演じたロバートダウニーJrは、スコセッシの発言について以下のように語っています。

 

「彼(スコセッシ)の意見には感謝します。僕たちはあらゆる考え方が必要なところにいるし、だから(全体の)中心として前進することができるんですよ。」

「ハワード・スターン・ショーをラジオじゃないと言うようなもので、そう言うことに意味はないですよね」

「スコセッシは(マーベル映画の)成功に嫉妬なんかしませんよ、マーティン・スコセッシですし。とにかく、この手のジャンル映画はいろんなことを言われるもので、僕はそんな“問題”に参加できて幸せでした。映画の一時代や、映画というアートフォームを傷つけるというね。野獣が足を踏み鳴らすように現れて、ものすごい勢いで競争相手を倒していくなんて、驚くべきことですから。」

(アイアンマン役ロバート・ダウニー・Jr.、マーティン・スコセッシの「マーベル作品は映画じゃない」発言に応答 ─ ジェームズ・ガンやサミュエル・L・ジャクソンも | THE RIVERより引用)

 

他にも、「ガーディアンズオブギャラクシー」を手掛けたジェームズガン監督が、スコセッシに尊敬の念を述べつつも、本件について悲しみの声を挙げています。

 

 

「スコセッシ監督は僕にとって最も尊敬する映画監督の5本の指に入るほどの人物。人々が作品を観もせずに、彼の『最後の誘惑』を批判した時は憤りを感じたけど、そんな彼が僕が作った作品をそれと同じように批判しているのは悲しい」(「マーベル作品は映画ではない」スコセッシ監督のディス発言にキャストたちが反応 – フロントロウより翻訳部引用)

 

この「尊敬しつつ」が、フィルムメーカーたちの共通した反応。

スコセッシの言葉を機に、彼らがスコセッシの作品を嫌いになることはないでしょうし、最新作「アイリッシュマン」は彼らに影響を与えていく作品になるでしょう。

本件は、映画を変革し、独自の美学を貫いてきたスコセッシが、現状の映画界に対して「貴重な一石を投じた」出来事といえるのではないでしょうか。

 

今後もスコセッシ作品に期待。

そして願わくば、「アイリッシュマン」を劇場公開してほしい(涙)

 

 

以上、スコセッシの「マーベルは映画じゃない」発言を考察する、でした!

 

 

映画「ジョーカー」の私のレビュー&考察はこちら↓

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